第2回で、短時間で効率的にOJTを実現する体制づくりとマニュアルの活かし方を解説しました。(第2回 OJTの体制づくり①「時間が無い中でどのようにOJTするのか?)
第3回は、マニュアル作成に入る前に考えておきたい2つのポイントについて触れていきたいと思います。育成現場にとって"使える"マニュアルを作るために重要な点です。
視点1:人材育成の計画はあるか?
筆者の経験から言えるのは、研修や人材育成部門と違い、業務を行いながらのOJT現場で陥りがちなのは、無計画に近い育成です。
例えば、新人を迎え入れたとして、最初の2週間程度は、職場のルール、ルーティーン作業、誰のもとについて業務を学ぶかなど、何となく教える事柄や担当が計画されていることでしょう。しかしながら、しばらくするとそれも担当者任せとなり、気づけば新人が一人で途方に暮れているケースも珍しくありません。
そのような育成現場で共通していること、それは「いつまでに」「何ができる状態を目指すのか」というゴールの設定ではないでしょうか。そして、そのゴールに向かうために、「どのタイミング」で「何を教えていくのか、体験させるのか」というプロセス設計(逆算計画)です。
新人の早期戦力化を望む一方で、日々の業務に追われ、この点が組織やチームで話し合われていないまま先輩社員にOJTが振られ、なんとなくOJTが始まり、なんとなくうやむやになって終わっているのです。
マニュアルという人材育成のサポートツールを作る上では、この育成計画の立案がスタートです。
マニュアルづくりに取り組むことは、組織やチームで、人材育成のゴール設定やプロセスを明確にする絶好のチャンスなのです。
視点2:いつ誰がどのように使うのか
マニュアルは人材育成のツールです。ツールである以上、使う人の目的や使いやすさを想定して作る必要があります。
例えば
・シフト制の販売現場など、毎日同じ育成担当者が出勤するとは限らない現場
・直属の上司や先輩ではなく、別の部門のトレーナーが指導する現場
・直行直帰の営業部隊で、対面で教える時間や場面が少ない現場
など、色々な職場があります。その職場環境ごとにOJT・人材育成を進める上でできること・できないこと、その企業・職場ならではの悩みがあるものです。
マニュアルはその助けになるツールになることを目指して作ります。どのような立場の人が、どのようなシチュエーションで教えるのか、使う場面を設定し、そのうえでどのような内容やメッセージを込める必要があるのか、どのような機能を持たせれば教えやすくなるのか、またどのような媒体で作れば業務の中で活用しやすいのか、といったことを考えていきます。
このように、人材育成の計画や使う場面を明確にしていくことは、マニュアルの原稿を書くことよりも遥かに重要であり、マニュアルの質を左右する大切なプロセスとなります。
次回は、この2つをもう少し具体的な事例を紹介しながら解説していこうと思います。
筆者
マーケティング研究協会
中村 佳美
商社の事務職、営業コンサルティング会社の営業職を経て、2012年マーケティング研究協会入社。企画営業職として、クライアントの営業力強化、マーケティング強化を支援している。クライアントの支援を通じて学んだ人材育成ノウハウ、新人時代に受けた上司の優れたOJTの経験を活かし、営業販売部門のOJT・人材育成業務のマニュアル作成支援も行っている。